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2012年7月20日

日本周産期・新生児医学会で初のワークショップが開かれたという記事が、MT Proに掲載されました。

「早期母子接触」の安全性を話し合う - MT Pro

「早期母子接触」の安全性を話し合う - MT Pro

会合の中で、主に以下のような内容が話されたようです。

  • 機械的モニターは従来、「うるさい」等否定的意見が多かったが、肯定的意見が続出し有用とされたこと。
  • 生後、60?120分頃が母子共に傾眠傾向が強く、注意が必要。
  • 観察作業を具体化。
  • 機械と人の両方の長所を生かした、観察が必要。
  • カンガルーケアという言葉が悪者として一人歩きして、原因分析の妨げにならないようにケースにより名称を細分化する。

 記事通りだとすると、やっと安全性の確保に向けて、動きだしたような感じを受けます。1日も早く、同じような事故がなくなるように、全力を尽くして頂きたいです。また、「機械式モニターはうるさい」とか、「人員が足りないから、母子同室にしよう」とか、そのような軽率な考えが二度とできないような、現場の意識改革を願います。

記事は以下の通りです。

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 出生直後からの母子の接触中に児に急変が起こり,重篤な脳障害となって訴訟などに発展している問題に関して,第48回日本周産期・新生児医学会(7月8?10日,さいたま市)はワークショップ「Skin to Skin ケア」(座長:聖マリアンナ医大小児科学教授・堀内勁氏、国立成育医療研究センター周産期診療部産科医長・久保隆彦氏)を開いた。同学会として早期母子接触を企画テーマに取り上げるのは初めてといい,安全への取り組みやケア中の母子の所見の変化,観察のあり方などについて意見が交わされた。その一部を紹介する。

産後60分ごろから母親の傾眠傾向が増加,観察には不向きな状態に

 出生直後からの数時間は児が環境の劇的な変化に適応する時間帯で,呼吸や循環動態が不安定なため,無呼吸などの異常が生じやすい。この時間帯の母子の覚醒状態や意識レベルはどうなっているのか,児の異常は目視で観察できる状態にあるのかについての報告はまだ少ない。

 この点について,富山県立中央病院小児科の山口由美氏らは自院で行った検討結果を報告した。対象は2010年4月〜11年8月に同院で出産・出生した母子1,108組。このうち在胎37週以降の経腟分娩で,母児の一般状態が良好であり,母親が早期母子接触の利点とリスクを理解した上でケアを希望し実施した457組について,最大120分まで経時的に観察を行い,得られた所見を解析した。

 457組のうち最後までケアが継続できたのは442組だった。出生体重は平均3,001グラム,室温は同26.4度,ケアの継続時間は同82.9分だった。

 まず,観察の担い手の1人となる母親の覚醒状態について調べたところ,ケア開始30分までは95%以上が覚醒していたが,60分時点には傾眠傾向が増加し始めることが分かった。90分時点では15%近い母親がうとうとまたは睡眠状態となっていた。「児を抱っこして安堵した結果ともいえるが,児の観察には不向きな状態かもしれない」と同氏。

 児の方も,ケア開始時点では7割以上が開眼しているが,徐々に目を閉じる児が増加し,60分時点では半数以上が,乳房を触ったり匂いを嗅ぐ行動をしながらも閉眼していた。意識レベルも,90?120分時点では3割が睡眠状態にあった。

 下肢で機械的にモニタリングした酸素飽和度(SpO2)は,ほとんどの児が95%以上を維持していたが,ケア開始から60分を過ぎても95%に達しない児も一部存在した。

 そうした児について,付き添った医療スタッフが目視で皮膚色を観察したところ,チアノーゼまたは蒼白と評価されたのは8例のみであり,他はすべてピンクまたはホワイトピンクと評価されていた。チアノーゼまたは蒼白が認められた8例のうち,実際にSpO2が95%以下だったのは2例だった。

 逆に,機械によるモニタリングでSpO2 90%未満とされた16例について医療スタッフの記録を見ると,16例とも皮膚色はピンクまたはホワイトピンクと評価されていた。口唇チアノーゼや呼吸症状が認められていた児は数例で,異常の早期察知にはモニターによる機械的観察が大きな役割を果たすことが示唆された。

 一方,ケア中に酸素投与が必要になった15例について詳細を見ると,8例は酸素投与後にケアを再開できていたが,7例はケアを中止,うち1例はNICUへの入院となっていた。母親の覚醒と児の急変に関する傾向は見いだされなかった。

 同氏は,児のSpO2が下がっていても目視では気付かない場合があることから機械的モニタリングは有用と指摘。「ただし,迅速に酸素投与が必要な場合もあるため,機械だけでなく,スタッフが付き添っての経時的観察もやはり必須となる。特に母子とも覚醒している割合が減少する出生後60?120分の時間帯はより注意が必要だ」と述べた。

未確立の観察手法,標準化に向け観察票を作成

 早期母子接触を安全に行うには,母親と医療者による注意深い観察が不可欠だが,座長の久保氏らが2010年に行った調査(子ども未来財団「分娩室・新生児室における母子の安全性についての全国調査」)では,早期母子接触中に母子の状態を記録に記している施設は28.3%しかないことが分かっている。具体的に母児の何をいつどのように観察すべきかが確立していないために,施設や医療スタッフによって観察内容の混乱やばらつきが生じているのが実態だ。

 そこで北海道療育園の林時仲氏は,前述の調査の分担研究として,標準的な観察方法の確立を助ける観察票の作成を担当。座長の堀内氏が2010年に発表した41項目から成る「関与的観察票」を30項目に簡素化し,その概要を発表した。

 関与的観察票とは,新生児(胎児から乳幼児)における行動発達組織化共作用的モデルを踏まえて開発されたものだ。

 新生児の行動は運動系,睡眠覚醒状態系,注意力/相互作用系,自律神経系の4つのシステムが関係しながら発達し,機能する(共作用)。つまり,児に心肺停止や無呼吸といった自律神経系の異常が出現する場合,それ以前あるいは同時に他のシステムにも異常が出現していると考えられる。児の覚醒や注視といった行動が認められない場合は,自律神経系の症状出現の可能性が予想されるわけだ。

 このため,出生直後の児では「児が母親と目を合わせているか」「手足を動かしているか」といった行動の観察が,異常を早期に捉えるための重要な鍵になる。堀内氏が開発したオリジナルの観察票では,この理論を踏まえて母児の行動に関する項目を経時的に細かにチェックし,母親の言葉なども記録するようになっている。

 今回林氏らが行った改訂作業では,状態観察に加えて行動観察も行うという構成を踏襲しつつ,記録を母子行動の出現時期に合わせて簡素化。行動が出現しやすい時期を強調表示することで,経験の浅いスタッフでも注意を払いやすくなるよう工夫した。児の心拍数や体温,姿勢(鼻と口が塞がれていないか),母親の体位などについての項目も追加した。

 「状態観察に加えて行動観察も行うことで,急変例の出現を予測した対策を取ることができるのではないか」と同氏。今後,この観察票によって早期母子接触の安全性が向上するかどうかの評価を行っていくという。

カンガルーケアからの名称変更は「逃げ」?

 ディスカッションでは,「カンガルーケア」から「早期母子接触」への名称変更や機械的モニタリングの是非について,フロアも交えて活発な議論が行われた。

 出生直後からの母子接触は「カンガルーケア」の呼び名が一般に定着しているが,新生児集中治療室(NICU)入院児に対するケアと混同されること,また事故が起こった際,「カンガルーケア」という言葉がマスコミ報道で悪の象徴のように使われることから,正期産児へのケアについては「早期母子接触」と名称を変更することが同ワークショップで提案されている。

 これについては,フロアから「訴訟が起きている中で名称を変更すると,カンガルーケアから早期母子接触に逃げようとしていると捉えられないか」という指摘があったが,座長の堀内氏は「今カンガルーケアと呼ばれているものには添い寝も含まれるほど混乱している。このままではあらゆる事故,急変がカンガルーケアのせいになる。これから事故や急変の原因究明をしていかなければならないのに,言葉の混乱があるとそれを阻害することになりかねない」と危機感を明示。「早期母子接触」を有力候補に,ケアの内容をより忠実に示す名称に変更していくことで見解が一致した。

 また,機械によるモニタリングについては,従来「音がうるさくわずらわしい」「機械に頼らなくても医療スタッフなら異常は分かる」といった否定的意見が多かったが,同ワークショップでは必要性を肯定する意見が続出。

 「助産師や看護師が見れば分かるという意見もあるが,人の目と機械,それぞれの長所を生かした観察が必要だ」(登壇者の1人で練馬光が丘病院小児科・依田卓氏),「モニター装着に違和感を訴える母親はほとんどいない。ただしモニターがあればスタッフがその場を離れてよいということではない。モニターを見るためにも人が付き添うことが必要」(同じく国立病院機構弘前病院小児科・野村由美子氏)と,機械の使用を前提としつつ,目視による観察を同時に行う必然性が強調された。

 同学会で初めて早期母子接触をテーマとして議論が行われたことについて,座長の堀内氏は,「今後は,出生後間もない時間帯の急変や事故の病因と病態を捉え,本当の意味での対策を行っていかなければならない。(スタッフは)そのことも考えながら日常臨床に当たってほしい」と力を込めた。

「早期母子接触」の安全性を話し合う – MT Pro