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2014年3月28日

福岡地裁での勝訴判決が記事になりました。

母子同床で1時間20分放置は経過観察義務に違反,病院の過失を認定

母子同床で1時間20分放置は経過観察義務に違反,病院の過失を認定


判決内容の詳細が掲載されており、さらには産科医療保障制度についても言及されております。

産科医療保障制度の第一の目的は、障害発生の再発防止ではなく、訴訟の低減です。病院側から提供された情報と、家族からの意見を元に、高名な先生方が審議した上で、報告書は作成されます。基本的に争い部分には立ち入らず、あいまいな表現を駆使してきます。
原因分析報告書作成マニュアル

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目的が訴訟の低減なので、訴訟にならないように作成されるようですが、ささいな判断ミスとも取れる部分が明らかになることで、場合によっては逆に訴訟に発展してしまうケースもあるようです。

世間では保険金が余っているとか、問題も指摘されているようですが、無過失保険制度があること自体が素晴らしいことですので、今後の発展を応援したいと思います。

以下、記事です。

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母子同床で1時間20分放置は経過観察義務に違反,病院の過失を認定

1億3,000万円の賠償命じる−福岡地裁

 帝王切開で出生した児が母子同床中に急変し,重度脳障害を負ったのは病院が経過観察を怠ったためとして,福岡県内の4歳女児と両親が国立病院機構九州医療センターに損害賠償を求めていた裁判で,福岡地裁(平田豊裁判長)は3月25日,原告の主張を一部認め,病院側に計約1億3,000万円の支払いを命じる判決を言い渡した。児が心肺停止に陥った原因については原告の主張を退けたが,帝王切開後など新生児の急変に母親が的確に対処できないことが予見される場合に,1時間20分にわたり観察を行わなかったのは病院側の過失と断じた。早期母子接触(STS;いわゆるカンガルーケア)中の児の急変をめぐっては全国で訴訟が起こされているが,患者側勝訴の判決は今回が初めて。

通常は15?20分間隔で助産師が見回り

 認定事実によると,原告の女児は2009年11月,予定帝王切開で出生した。出生後のアプガースコアは直後が8点,5分後が9点など特に異常は認められなかったが,多呼吸が見られたことから保育器で管理された。母親には鎮痛のため鎮痛薬や抗アレルギー性緩和精神安定薬が投与された。母親は2度目の出産だったが,1度目は児が緊急搬送されたため,出生直後の児の管理経験はなかった。

 同センターでは通常,帝王切開当日の児は新生児室で管理して,授乳のたびにスタッフが児を母親の元に連れて行くことになっていた。また,母親に児を預けた場合は15?20分間隔で助産師が見回るようにしていた。このため,本ケースでも出生から約10時間後の午後10時ごろ,2度目の授乳のため助産師が女児を母親のベッドに移動させ,左側の乳首を口に含ませていた。

 その際に母親は女児が母乳を飲まないことを伝えたが,助産師が急患対応に入る必要が出たため,女児はそのまま母親に預けられた。急患患者は母親と同じ病室に入り,大声を出すなどしていたため,母親は女児の様子がおかしいと感じつつも,急患対応を優先してもらった方がよいと考え,ナースコールはしなかった。

 その後,母親が女児の異変に気付き,午後11時20分にナースコールをするまで,病院スタッフによる経過観察は行われなかった。心肺停止状態を確認された女児は,蘇生措置で一命は取り留めたものの低酸素性虚血性脳症となり,4歳半になる現在まで自発呼吸,自発運動,反射などがないという。

「母親が急変に対応できない可能性は予見できた」

 女児が心肺停止に陥った原因について,原告側は低体温や低栄養,窒息の可能性を指摘していたが,判決では証拠不十分などとして主張を退けた。

 しかし授乳中の経過観察義務については,「授乳は母と児の生理的な行為であり,医療関係者による指導や厳重な監督がなければできないような性質のものではない」としながらも,出生直後の新生児は呼吸・循環動態が不安定であり,まれではあるが急変や急死の事例が生じていることは周知の事実と指摘。

 「母の自助に対する補助という見地から,医療機関は必要かつ相当な範囲で出産後入院期間中の母児への指導や観察を行うことが当然に予定されている」として,出産方法や母児の状態を考慮して,危険を回避する措置を講じる必要があるとした。

 その上で,本ケースでは女児に多呼吸が見られていたこと,母親に投与されていた薬剤には意識障害や傾眠,昏睡などの副作用があること,午後10時過ぎという時間帯,新生児室ではなくベッドに横臥した状態での授乳といった事情を考慮すれば,女児に急変が生じる可能性や,母親が女児の急変に的確に対処できない可能性は具体的に予見できたと認定。

 実際に母親は午後10時からナースコールする11時20分まで時間の感覚がなかったことを挙げ,「心肺停止の原因がいずれであったにせよ,病院スタッフが経過観察を果たしていれば,母親がナースコールするより相当早く異変を発見し,重度の後遺障害を負う結果を回避できた」と判断した。

原因の断定は避けつつ起きた結果に責任認める

 出生直後の児がSTSや母子同室,母子同床などを行っている間に急変し,重度の脳性麻痺に陥って,医療訴訟になっているケースは全国に少なくとも6件あり,原告らは家族会を結成して連携を取り合っている。このうち大阪の訴訟は昨年9月,STS中に児が窒息した可能性を認めつつも,病院にその防止義務はなかったとして棄却された(現在控訴審中)。出産方法や状況に違いはあるが,福岡の本訴訟で,原因について結論を出すことは避けながらも,起きた結果について病院の責任を認めたのとは対照的だ。

 家族会の世話人も務める羽田野節夫弁護士は「産科では,STSや母子同室の名の下,出産で疲れている母親に児が預けっぱなしにされている現状がある。その間に児に何か生じても,『出生直後の児には急変の可能性があり,全て観察するのは現在の医療提供体勢では不可能』とされてしまい,リスクを伴う管理体制が放置されてきた。今日の判決で病院の責任が認められたことによって,警鐘を鳴らすことができたと思っている」とコメント。

 女児の母親は,「病院の責任が認められてよかった。この判決を得たからといって娘が家に帰れるわけでも,元の状態に戻れるわけでもないが,少し報われた。同じようにつらい気持ちを抱えている患者家族が救われれば」と述べた。

 本ケースは産科医療補償制度の認定も受けているが,病院の過失を認める判決が確定した場合は認定対象から外れ,既に支払われた補償金は賠償金から同制度に返済される。患者家族によると,制度で行われた原因分析では,経過観察について特に問題は指摘されていなかったという。

母子同床で1時間20分放置は経過観察義務に違反,病院の過失を認定 – MTPro